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「裏切者だっぴ!」
エニグマの森にこだまするヴォークス族の声。
それは鳴き声ではなく、怒号だというのはその場にいる仲間しか分からない。


エニグマに憑かれし者


 


リクが去った朝。その場にいる誰もがリクがいないことを知った。
カシスはリクがいなくなった経緯、そしてリクにエニグマが憑いていることをその場にいる全員に話した。
だが…。
「俺が見ても…あのエニグマ、リクを心配していた気がするんだよな…」
「確かに。 カシスの証言を聞いてリクの身に何かあったという事は確かだね」
「ソシテ センセイヲ シッテイル…。 コレハ…」
「裏切者だっぴ! リクは裏切者だっぴ!」
先程からずっとそれを言っているピスタチオに4人は溜息をつく。
「あのなぁ…。 リクがエニグマ憑きで裏切るとしても、だ。 ここまで来たのは誰のお陰なんだよ」
「カシスに同感」
「ドウカンデス」
「俺もだぜ」
頷いたのはピスタチオを除く人々だった。
「それに、ここで裏切者と言っていても、何も始まらないんだぜ?」
カシスはそう言うと、歩き出す。
「まずはマドレーヌ先生と合流をする。 それからリクの事を伝えて、吐かせる。 俺が見る分、あのエニグマは先生を名指していっていた。 先生の知り合いと見てもいいかも知れねぇ」
「エニグマと知り合いだっぴかーーー!?」
「分からない。 でもそれを知る為には、先生と合流をするしかないんだ」

ざくざくと歩いて10分。村が見えてきた。

ツリーマンの集落。
エニグマの森の中央にある集落は、対エニグマの為に作られた小さな要塞のようだ。
そこに見慣れた人影がいた。
「皆はまだ、光のプレーンにいるのかしら…。 それとも、こちらに連れてこられたりしているのかしら…」
その声に聞き覚えがある一行は、「マドレーヌ先生!」と人影に呼びかけ、走っていく。
それに気付いたマドレーヌは「シードル! それに他の皆も!」と、生徒達を見つめた。
「よう、先生。 大丈夫だったか?」
気さくに声をかけるカシスに対し、マドレーヌは不満に思ったのか「大丈夫に決まってるでしょう!」と叫ぶ。
「それよりも、貴方達。 エニグマに連れられてこっちに来ちゃったの!?」
「俺とシードルとセサミはそうだけど…カフェオレとピスタチオ達は一度学校へ戻ったらしいぜ」
俺の大活躍で此方に来たんだ、と言いたげにカフェオレは「エヘン」と一言声をあげる。
「そうだったの…。 今まで大変だったでしょう? でももう大丈夫。 すぐにカフェオレを改造して、元のプレーンに帰れるようにしてあげる!」
簡単に出来るような発言をするマドレーヌに、シードルは「カフェオレってそういう存在なんですね…」と溜息をついた。
「シクシク…。 オレッテ カワイソウナ コ…」
しかし、その会話を断ち切ったのはカシスだった。
「ちょっと待て、先生。 俺達、途中でキャンプをやめて学校に帰ったらその場で退学だって校長に言われたんだけど」
「カシス…!? それって聞いたって事も言っちゃ駄目だって―」
「いんや。 言わせてもらうぜ、先生。 今は非常事態だ。 学校に帰る云々の話じゃない。 それにリクの事だってあるんだ」
リク、という名前にマドレーヌは疑問を抱いた。
「リク? リクがどうしたの?」
「リクが巨大なエニグマと一緒に『楽園』に行った」
カシスのその言葉にマドレーヌは愕然とした。
「巨大なエニグマが言うには、心配しないで欲しい らしい」
マドレーヌは頭を抱えるしかなかった。
一体こんな時に、子供たちの身に何が降りかかっているのか…。
自ずと分かっていたのに…それなのに…。
「先生はリクの事を知っているんだろう? 教えてくれ。 そうでなければ、俺達は…リクを恨んでしまうんだ」
マドレーヌは溜息をして、「そうだね…」と口を開いた。
「そこまで知ってしまったのなら、仕方ない。 話してあげる。 リクと…そしてその巨大なエニグマ、ゲゥ=グレンドゥの事を」
そして静かにマドレーヌは瞳を閉じた。

「リクが生まれる前、エニグマの世界で騒動があったの。 それは生きる英雄ゲゥ=グレンドゥの消失。 プレート移動の魔法痕からして、私達が住む物質プレートに進入したのは間違いなかった」
「それって…グレンドゥが物質プレーンに戦争を仕掛けたってことか?」
「いいえ、今となっては違うわ。 彼の目的はただ一つ、完全なる適合者との融合だった。 当時は一英雄が戦争を仕掛けてきたと言われていたけど、その後もそんな動作は微塵も見当たらなかった」
「まさか…それは…」
「生まれたばかりのリクが…エニグマと融合したってことか!?」
愕然とするカシスに対し、こくりとマドレーヌは頷く。
「簡単に出来ることではないわ。 無垢な状態で融合できずに、エニグマ自体が消失してしまうリスクは少なくとも90数パーセント。 当時はほぼ死亡とも思われていたことが奇跡的に叶ってしまったの。
その事実を遅かれながらも知ったエニグマを監視する組織は、なんとかリクの身柄を拘束した。 私はその監視者でもあったわ」
「先生が…エニグマを監視する人だっぴか!?」
「そんな組織があったなんて…知らなかったなぁ…」
「しかし、エニグマが融合した後の目的って何なんだ? 融合だけでは気がすまなかっただろ?」
今の今まで数々のエニグマを見てきたが、人に対して乱暴で破壊さえすればいいという思考回路ばっかりだった。
カシスの問いに対し、マドレーヌは溜息をついた。
「何も…何も、その後は欲しがらなかった。 ただ、そこに佇み、リクの精神を守っているようだった…」
「ホシガラナカッタノカ…。 デモ ドウシテダ?」
「グレンドゥは言ったわ。 欲しいものはもう手に入れた。 もう心残りなどない、と。 あの時…融合した際にリクに「生かされた」のだと。 生かされた命なら、生かしてくれた肉体を守りぬかなければ、己の信念の意味合いが立ち行かなくなる、と」
その言葉を聞いて、5人は無言になった。
「エニグマが悟るなんて話を聞いたことがなかった。 いつもの、今までの欲望と破壊だけを望むものとは違う…。 私はそう思った」
「だから…学校に?」
「ええ。 それに、これは校長の厚意でもあったの」
「校長先生の…?」
カシスはあえて、今まで感じていたことをマドレーヌに吐き出してぶつけてみることにした。
「一体グラン・ドラジェ校長は、俺達に何を学ばせようとしてるんだ? はっきり言って、こっちに来てからずっと命がけの戦いが続いてる。 命がけで学ばなければいけないものって、一体何なんだ!?」
マドレーヌは無言を貫こうとしたが、それが叶わない事を思い、溜息をついた。
「さすが…。 校長が走り回って集めてきた生徒ね…」
マドレーヌの脳内ではあの日の事を思い出していた。


「先生、俺の姉さんはどうなってしまったんだ!? キャンプから帰ってきてから変なんだ!! 別人みたいなんだ!!」
悲鳴を上げそうなガナッシュの声が、校長室に響き渡った。
くるりと振り向き、「ふむ…」とそれを見るグラン・ドラジェは困り果てたように言い始めた。
「ガナッシュ君だったね? 姉さんがキャンプから帰ってきて変わったじゃと? そんなことはない。 何も変わっておらんよ。 変わったように思えるのは、ガナッシュ君がお姉さんの全てを見ておらぬからじゃ」
校長の言葉を補足するようにマドレーヌはガナッシュに言い放った。
「あのね、ガナッシュ。 貴方がお姉さんの事を分かってあげることが大切なの。 どんなに変わってもお姉さんはお姉さんなのよ」
そんな言葉の数々を聞き、ガナッシュは歯軋りを立て、「もういい! 二人には命の重さが分からないんだ!!」と叫び、去っていってしまった。
ぽつんと佇む校長と先生の影。
「ヴァレンシア海岸での臨海学校…。 来年も再来年も続けられるのですか?」
「うむ。 魔法を学んだ以上、闇を避ける事はできんのじゃ。 もし、誰も闇を克服出来ぬと言うのなら、何故魔法など教えねばならんのじゃ」
「でも…。 ヴァニラは…!!」
「ヴァニラか…。 確かに、このまま放っておけば、あの娘はこの国の敵になる。 だが、それを押さえ込んだところで、何の解決になる?」
「魔法を学ぶには、リクと同じように命がけで臨めと仰るのですか? リクと同じように子供たちに命をかけろと…!?」
「分かってくれ、マドレーヌ。 確かにリクの場合は上手くいった。 寧ろ、いきすぎたと言ってもいい。 じゃが、他の子供達はそうもいかない」
マドレーヌの影が、動揺するように揺れ動く。
「真の恐ろしさも知らずに、魔法を教えてきたのは間違いじゃった。 だが、もう遅い。 魔法を返してくれとは到底言えぬ所まで来てしまったのもまた事実。 ならば、やるべきは正しい道へと子供達を導くことじゃ」
「だけど…危険すぎます…!」
「マドレーヌ、愛とは何じゃ? そして愛の反対とは? お前はそれを生徒たちに教えねばならない。 分かるじゃろ?」

マドレーヌとグラン・ドラジェ校長の事を聞いたシードルは「ようするに」と口を開いた。
「エニグマの誘惑に負けるなって言いたいんでしょ? エニグマと融合すれば、凄い力が手に入るけど、そんな誘惑に負けるな!自分の魔力で打ち勝て! ってね」
「それじゃあ、既に融合しているリクはどうなんだよ…」
「そうだった…。 リクの場合もあるんだっけ…」
カシスとシードルの話を聞いて、マドレーヌは「…半分くらい当たってるかなぁ…」と、溜息をついた。
「ほら、半分で50点。 シードルは落第だな」
カシスの挑発的な言葉を聞いて、シードルは舌打ちをした。
「デモ、ハナシヲキイテマスト マルデリクハ リクノナカニイル エニグマヲセイギョ デキルヨウニ オモエテナラナイノデスガ…アタフタ」
「制御、というより心と心が共存しあっている、と言えば良いのかな」
「やっぱり小さい頃からずっと一緒にいる存在だから、か…」
「でもそれだと『楽園』に行く理由がないだろうが! どうして行っちまったんだよ! リクは!」
地団駄を踏む虫使いを見ながら、マドレーヌはふとあることを思い出した。
「あるとしたら…もう一つ、リクの中には強大な存在が潜んでいるの。 ゲレンドゥ曰く、「リクの守り神が常に中にいて、リクを見守っている」…」
「…リクの中に…守り神!?」
「リクのお腹の中はなんでもありっぴか!?」
「詳しい事は、あまり解明されていないの。 ただ…「血の流れで来たらしく、それ以降はリクの中を気に入ってのんびりしている」らしいわ」
突然の発表に、頭を抱えるのはカシスだった。
「なんじゃそりゃ…」
「でも、それが悪さをしたってこともあるのかな…」
「悪さ…」
カシスはふと、あの時を思い出した。
あの時…。そう、リクがクアトロフォルマッジに融合されそうになっていたあの時である。
「あの時…リクが融合されそうになった時に、リクはそれを拒むかのように悲鳴をあげていた…!!」
融合、拒む、悲鳴…。
その言葉を聞いたマドレーヌは、「もしかすると、それかもしれないわね…」と、カシスの言葉に頷いた。
そして、マドレーヌは不安そうな顔で、頑なに口を閉ざした。
それを見ていたカシスは「先生、俺達ならなんだってやれるぜ!」とマドレーヌに対して声を発した。
「ここまで、オイラ達でやってきたし、心配…して欲しいけど、しなくてもいいっぴ…!」
「それはどっちだよ…ピスタチオ」
「ガナッシュ達もどんどん先に行ってしまうよ」
「ゴクリ…」
勢い付く子供達を見て、マドレーヌ先生は溜息をついた。
そして…。
「良いよ、好きにしな」
「やったーっ!! 先生大好きーっ!!」
くるりと珍しく飛びあがるシードル。
「その代わり、皆揃ったらすぐに学校へ戻るんだぞ!」
「OK! 承知の上さ!」
そう言い、先生を含めた6人で、再びエニグマの森へと入っていったのである。



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