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それは闇の奥からやってきた。
黒い影のようにするりと足音も立てずに。
虫使いの目は震え、ごくりと唾を飲み込ませた。
それを見て、闇の黒い影は暗黒の微笑をする。
「来ると信じていたよ。 力は誰にとっても必要なものだ」




ぞくりとするような足を虫使いのほうに這わせる。
刹那。
「セサミ! なんとか間に合った…!」
先程、大喧嘩をした知り合いの声が聞こえ、虫使いのセサミは後ろを振り返る。
そこにはリクたち5人の姿があった。
はて、とダブハスネルは呟く。
「何が間に合ったのかな? この男は今、我らが手中にある。 手出しが出来るかな?」
そんな闇の声を振り払うかのように、カシスは大声を上げて「エニグマと融合してどうするつもりだ!?」とセサミに問いかけた。
「変えたいんだ…」
「カエル? カエルッテ ナニヲ?」
カフェオレの投げ掛けに対し、セサミは俯いた。
「虫に夢中になってエニグマにさらわれたのも。 何も考えずにムスクさんの言いなりになってたことも。 全部…オレが悪いんだ。 だから、オレはエニグマと融合して自分を変えるんだ」
その言葉にダブハスネルはくつくつと笑う。
「良い心掛けだ。 皆も見習ってはどうだ? ただの人間など、我らの力の前には塵当然。 変わってみたいと思わないか?」
その言葉に対し、誰も何も言わない。
代わりにセサミに対し、シードルは「そんなんじゃ何も変わらないよ」と言った。
「君はずっと、ボクの気持ちを分からないままだし、ボクも君の事をずっと分からないままだよ。 それは今のまま、変わらないって事だろ?」
俯き続けるセサミに、シードルは手を出した。
「仲直りしよう」
それを見てさらにダブハスネルは微笑む。
「弱い奴は肩を寄せ合うより他に生きる道がない。 哀れだとは思わぬか?」
ずるりとダブハスネルはセサミに近づいていく。
「お前は俺の宿主になる。 それがお前の運命だ。 お前に必要なのは力だ。 お前の身体に俺の力が加われば、物質プレーンなど落とすのも容易くなる」
ダブハスネルはセサミに寄り付いていく。
だが、セサミは先程からダブハスネルすら見ていない。
それが何を意味するか知っているリクは「好きにすれば良いよ、セサミ。 君が決めれば良い」と言ってあげた。
意外な言葉にセサミは俯くのをやめた。
「好きにしろって…言ったよな、リク」
「君は自由だ。 融合したければすれば良い」
セサミはそれを待っていたかのように、くるりとリク達に振り返った。
「好きにさせてもらうぜ! 俺が欲しいのは力じゃない! 自由だー!」
そう言い、セサミはリク達へと駆け寄った。
「そうこなくっちゃ!!」
「自由であるが為には、まずは道を切り開こうぜ!」
光ある声たちに対し、ダブハスネルは歯軋りをした。
「馬鹿め…。 お前が…お前たちが選択したのは自由ではない」
いつの間に仲間を呼んだのか、その場に30匹ものエニグマが現れた。
「これは…なにかのホームパーティーか何かか?」
「さてな。 奴さん、そんな馬力があるようには見えねぇけどな」
刹那。
がくりとリクの膝が地に落ちた。
それを見て、30匹ものエニグマたちはくつくつと微笑み、ダブハスネルは「まずは1匹…」と呟いた。
「リク! どうした!?」
リクの身体を起こそうとカシスは、リクの腕を掴もうとした。
その時、不思議なことにリクがカシスの腕を強く握ってきたのだ。
その時の眼はいつもの薄紅ではなく、まるで桜が満開になったかのような桃の色。
そして、リクの身体からは大量の愛の精霊達が溢れ出したのだ。
その数は、エニグマと同じ程…。
そしてリクが、『守る』とまるで片言のような言葉を発した瞬間、愛の精霊達から大量の光の矢がエニグマたちを貫いた。
まるで、愛の裁きの如く、流星が怒りを発しているかのように。
5人が呆然としていた目の前には、もはや、エニグマは一匹もいなくなっていた。
カシスは気を失っているリクの身体を起こし、背中に乗せた。


夜になってもエニグマの森はしん、としており、すやすやと眠っているリクを中心に囲んで火種に温まるかのようにしていた。
無言で食事をし、無言でのんびりと5人は過ごしていたが、シードルはぽつりと呟く。
「さっきは、すまなかったね。 君って、何を言われても答えないんだって思ってたから、つい言いすぎちゃった」
「言い訳になってねぇよ…」
「イイノカ イイノカ~? エニグマト ユウゴウシテ オレタチヲ ケチラスンジャ ナカッタノカ~?」
カフェオレの言葉の攻撃にセサミは顔を横に振る。
「弱くてもいいんだ!! だって、俺はもうちょっとで エニグマと融合するところだったんだぜ!! その気になれば、世界なんて滅ぼせたんだぜ!! ってことは、ある意味俺は世界を救ったんだ!! そう言えなくもないだろ?」
ある意味、プラス思考の発言にシードルは溜息をついた。
「そうだね。弱くてもいいって言うのは ある意味、強さでもあるよね」
「出た、お得意の言葉のマジック。 注意して聞いてないと、はぐらかされるぜ」
「意地が悪いなぁ~」
その会話にいつもなら微笑みながら「本当にね」と言ってくれるいつもの人はいなかった。

 

なにやら嫌な予感がして、カシスは起き上がった。
周囲を見渡す。
寒さと魔物避け対策につけていた火種はまだぼうぼうと燃え盛っている。
そして、リクの寝ていた所を見たが、そこには誰もいない。
ふと、森の奥に光が見えた。
カシスはそっとその光が溢れる場所に近づいた。
そこで誰かが話している声が聞こえた。
「僕は大丈夫。 まだ平気だよ」
リクの声だ。
そう思い、カシスは木々の陰に隠れた。
『平気ではない。 もう限界だ。 【彼女】の警戒心も酷くなっている』
誰と…リクは話しているんだ? と疑問を抱き、木々の間からそれを見てみた。
そこにいたのは紛れもなく、エニグマ。しかもかなり大きい。
瞳はリクの薄紅とは違い深紅に輝き、身体は影のように半透明のシャドウのような色。
鮫のように尖っている牙を見るに、いつも対峙しているエニグマとは違う。カシスにとっては初めて見るエニグマの種だった。
低音に響く声はまるで駄々をこねるリクを説得しているかのようだ。
『このままではお前が【彼女】を抱けなくなり、壊れる』
「だからそんなことにはならないって…」
『そんなに『楽園』が嫌か?』
その言葉に、リクは俯いた。
「違う…違うけど…。 でも…皆には僕がいないと…」
刹那。ぱきりと木枝が折れる音がした。
リクは振り返り、その木枝を折った人物を見て、驚愕した。
(カシ…ス…?)
「リク…。 これはどういうことだ?」
(どうして…? 僕は…)
カシスは、驚愕して俯いているリクに対し、両肩を鷲掴みにした。
「このエニグマは一体何者だ! どうしてお前がエニグマなんかと―」
刹那、両肩を鷲掴みにしていた手を振り払い、リクは睨みつけた。
『リクに触れるな』
リクとは違う声。まるで少女の声だ。
呆然としているカシスに、リクは目を見開き見つめている。
そして、「グレン!」とエニグマに話しかけた。
「やっぱり…僕『楽園』に行く!」
エニグマは目を細め、『やっと理解してくれたか』と言った。
リクの目の前には黒い渦が蠢いている。
そこに入り、カシスに微笑んだ。
いつもとは違う。微笑だった。
「ごめんね、カシス。 皆にも…そう言っておいて」
そう言うと、黒い渦の中にリクは消えていってしまった。
「リク…!!」
カシスはリクを追いかけようとするが、それを遮るかのように、エニグマが立ちはだかった。
『マドレーヌに伝えておけ。 我らは『楽園』へ行く、と。 心配する事はない、とな』
エニグマはそう言うと、リクが消えていってしまった黒い渦の中に潜るように入っていってしまった。

エニグマが消えるや否や、黒い渦は消えてエニグマの森はいつもの薄暗い森へと元に戻った。
ふわりと枯れ葉が飛んで、そこには誰もいない、と…否、誰もいなくなったと告げているかのようだった。
呆然と佇む少年は、友人を失ったことも、エニグマの伝言の意味の事など、少数時間、分からずじまいだった。

 

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